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心があったまった話 完結
今朝、新しい写真入りのカードを作る為に、顔写真と£10を持って、再び早めに駅へと向かった。インフォメーションで並んで待った後、女性の係り員に状況を説明した。私の乗る電車は、7時48分発なので、悠に20分はあった。その女性は、色々な書類を取り出して、私に幾つもサインするように伝えた。コンピューターにも何やら色々打ち込んでいるが、途中で上手く行かないらしく手間がかかっていた。定期を失くしている間に買わなければならなかったチケットは全部で3枚。一枚が約£3(600円強)で、それは後日、チェックで家に郵便で届けられるということだった。時間が迫る、もう40分だ。隣の係りの男の人も彼女のコンピューターでの入力を手伝ったりしてくれた。朝のラッシュ時なので、私の背後には、ラインで自分の順番を待つ人がずらりと並んでいた。そうしてようやく、£10を払い、再び定期を手にしたのが48分。走らなくてはならない。忙しい朝の時間に、面倒な処分を色々してくれた彼女に丁重にお礼を言って、ホームへ走った。こんな時、スコットランドの、時間に甘いことに感謝した。48分を過ぎても、電車は到着したばかりだったので、遅れることなく乗れたのだ。
ホッと嘆息し、窓の外を見ていたら、ゆっくり動き出し、城壁の側をぬってしばらくすると街の二つ目の駅に着いた。そこでかなり沢山の会社員らしき人々が乗り込む。そして、その駅を過ぎた頃、1人の若い女性が通路を歩いて来た。私の斜め前に一旦座ると、すぐに腰を上げて、私に近付いて来た。目の前で立ち止まり、私は目を上げた。彼女は言った。

“xxx駅まで、毎日行ってるの?”

そうだ、と答えると、彼女が話し出した。

“実は、xxx駅の近くに住む女性が、これを拾ったんだけど、”

見覚えのある、私の写真入の青いプラスチックのカードだった。目をまん丸にして驚いた。

“彼女が、駅に私がいる時にやってきて、この写真の女性(つまり私…ひどい写真だが)を見たことないか?って聞かれて、私もいつもこの電車に乗ってるから、前にあなたのことを何回か見かけたことがあって、そう言ったら、是非、渡してくれるように頼まれたの。よかったわ。ここで会えて。でも、新しい定期は、もう買ったなんてことはなかった?”

開けたままの口が、ようやく動き出した。

“実は、今朝、買ってきたとこなんだけど、£10だけ払うことでよかったから”

そうして、ニコニコ笑う彼女に、何回もありがとう、を言った。

“その、拾ってくれた女性にサンキューを”と言って、xxx駅で一緒に降りると、別れた。もちろん、その女性が誰かはわからないから御礼の言いようはないが、私の心の中は感謝の気持で一杯になった。女性が、道端で拾った定期を、無人の駅ではどこにも届けることが出来ずにいたこと。考えて、見知らぬ女性に聞いてくれたこと…きっと彼女1人に聞いたわけではないだろう、この写真の女性を見たことがある、という人に会えるまで聞いてくれたに違いない。そして、それを預かった女性は、落し物案内所へ届けるよりも、確実に早くに私の手に入るよう、直接、通路を歩いて私を探し当ててくれたのだろう。さっきまでは、誰かが捨ててしまったに違いない、と悲しい想像をしていた私。今は、心優しい、親切な人々が私の為に努力してくれた想像で胸が熱くなった。

人は、やっぱりいいものだ、そう思った。
基本的に皆、優しいのだ。
それに比べて、私の気持はどうだっただろう?
心が熱くなり、自分が情けなくなった。

親元から、友人から、そして故郷、祖国から遠く離れて暮らしていると、心が敏感になる。
ちょっとしたことで、傷つくし、すぐに悲しくなる。容易に泣ける。
でも、こういう人の心の温かさに触れると、その温度は砂漠の昼間のように熱く、なだれこむ。
また、容易に泣けた。
嬉しかったのだ。
感謝だった。
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by yayoitt | 2005-03-02 03:50 | 英国暮らしって...
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