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ピーターの、思い出 
スコットランドに来て、はじめて手にしたのが ホテルの仕事 だった。

ここで1年半を過したわけだが、最初の1年は、レストランの朝食と昼食担当。

朝は5時半からのスタートで、毎朝、朝日が昇るよりもずっと早くに家を出た。

ホテルは、エジンバラのメイン通り Princes Street にあり
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目の前には スコッッモニュメント と エジンバラ城 を見る、それは良い場所。
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週に2回、日本人の団体客も宿泊するので、その朝食のウエイトレスをするのは、とても嬉しかった。 



一緒に働いていたウエイターの ピーター は背が低く、とてもハンサムでかわいらしい男性。

私は、日本人のお客さんから度々、お願いをされたものだ。

 “ あの ・・・ あのウエイターさんと一緒に写真を撮ってください ”  

その度に、アイルランド人の30半ばの彼は ・・・

 “ あらぁ、どうして、あたし? ”

と顔を赤らめながらも、しっかりカメラに向かって微笑み、必ずその女性の頬にキスした。

それをカメラのレンズから見ながら、私は心で呟いていた。

             ・・・ 罪深い男よ

彼が ゲイ だということは、頬を赤らめてキャーキャー言ってるお客さんには ・・・ 黙っておいた。 笑

いつも金髪を短かく整えている彼 ・・・。

冗談で頭をいじると、真剣に怒っては鏡の前へ走り、念入りに乱れた短髪を整えていた。

あの前後の違いは、私には理解が出来ず、何度も何度もいじくっては怒らせたもの。
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              左から2人目がピーター

彼はよく言ってくれた。

 “ やっこ ・・・ もしも、やっこが人種差別を受けるようなことがあれば
  僕が守るから
 ”

その言葉の通り ・・・。

教養のないシェフから 英語が理解できない外人 と言われた時、ピーターは真っ先にキッチンに行き、面と向かってシェフに話をしてくれた。

 “ 僕はね、ほら、こんな風だからいつも、男の人から差別を受けるんだよ。
  だから、差別を受ける人の気持が痛いほどわかるんだ ・・・
 ”

週末になると、毎週のように踊れるクラブへ誘ってくれた。

ピーターと、彼のパートナー、そして同僚でゲイの男性たちと踊りに行く。

お酒に弱いピーターは、何度も優しいキスをしてくれた。
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 “ やっこ、辛いことがあれば、何でも言って ・・・ ”

耳元で囁いてくれる彼は、何故かとても寂しげに、泣きそうな瞳をしていた。

大きな音楽の渦 ・・・ 左右上下に動く人々の影 ・・・

気が付くと、お酒が弱い背の低いピーターを私は、見失ってしまっていた。

 ピーター   ピーター

私の声は紛れ、散らばる光の欠片に壊れ、彼には届かなかった。
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気が付くと彼は、遠くを眺めては立ち尽くしていることがあった。

彼の背中は、何かを隠していた。

だからと言って、誰に告げるものではないのが彼にとっては自然で、そうして生きていた。

 ピーター   ピーター

彼の苦悩はきっと、差別的なことと関係があったのに違いないと、思っている。

今から9年前 ・・・ 

立ち止まった背広の後姿を

タバコの煙を眩しげに見る瞳を

私も守ってあげたかった。

愛しい友は今、どうしているのだろう ・・・。
by yayoitt | 2008-02-23 05:38 | 英国暮らしって...
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