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追い抜けなかった背中たち
病棟勤務は、常に忙しくて 廊下をゆっくり歩く ということは殆どない。

私が勤めてきた病棟は、小児科、未熟児センター、眼科、口腔外科、耳鼻科、内科、整形外科と様々だった。

いつもそこで、その廊下で 立ち止まって戸惑う瞬間 というのがあった。

そんなことをしていては仕事にならないのに・・・、それはわかっていながら、なかなか出来ないこと。

多くの看護師が、働きながらそれを感じ、しかし時間に追われて仕方なく通り抜ける。
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患者さんの後姿を追い抜く ということの意味の深さ。
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そんなに広くない病棟の廊下を、リハビリ用の靴を履き、半身麻痺の腕を反対の腕で抱えるようにして歩く背中 ・・・。

点滴台を押しながら、散らばるガーゼに覆われた顔を隠すように俯(うつむ)いて歩く背中 ・・・。

 “ 癌になるといけないので・・・ ” と真実とは違う説明を受け、進行癌の手術を明日に控える父親と、何もかも知っている息子が重なり合って歩く背中 ・・・。

未熟児で産んでしまったことを、自分のせいだと責めながら、若い母親が、ガラスの中の我が子の元へ通う背中 ・・・。

亡くなった事故の相手の家族と面会する為に、まだドレーンを立てたままの腹を押さえて歩く若者の背中 ・・・。

 “ また、来年かなぁ・・・ ” と呟きながら、廊下南向きの窓から5月の遅い桜を見つめる背中 ・・・

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そこには、様々な背中が、それぞれの一生を抱えて歩いている。

身体と心の痛みに身を捩(よ)じらせているのに、それを他人に見せないようにと、歩いている。

そんな背中たちを、ゴムの音を響かせ、風を巻き起こしながら通り過ぎることはやはり、できやしないんだ。
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by yayoitt | 2007-03-24 01:17 | 看護婦時代
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