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ペットの命と経済
病院での悲しい出来事は、山ほどある。

安楽死 は、それがどんな状況であっても、なかなか慣れることがない。

23歳の大往生で、動けなくなった猫を見守りながら逝かせるご主人・・・。

突然の貧血症状で、丸一日病院のケネルでご主人から離れて過し、その夜の開腹手術のテーブルで、広がった癌からの出血を発見、おなかを開けたまま獣医がご主人に電話をして、そのまま逝かせる・・・。

不自然に作られた腰の形のせいで、長年痛み止めを服用し、とうとう立てなくなってご主人の見守る中、おうちで静かに逝かせられるジャーマンシェパードドッグ・・・。

その一つ一つが、忘れられない物語で、寂しく心に残る。

安楽死 ・・・ 飼い主にとってはとても辛い選択であるが、動物にとっては優しい選択 と私は理解する。

苦しむ動物を痛みや苦しみから救ってあげることができる、がしかし、自ら愛する者の死を選択した飼い主は、これで本当に良かったのか・・・と後悔したり懺悔したりする。

・・・ 先週の金曜日の午後。

杖を突いて病院に通う Ms.D には、5歳のコーギー JC(ジェイシー) がいつも側にいる。

JC は、仔犬の時から皮膚が弱く、現在は常に飲み薬を服用している。

Ms.D は50代前半くらい、独り暮らしであろうか、いつも JC を連れてくるのは彼女である。

JC の皮膚病は前進後退を繰り返し、皮膚専門の獣医にも紹介してもらっているが、肝心の治療の時点で、話はいつもストップしてきたのであった。

その理由は、治療費が払えない からである。

それでも Ms.D は小まめに病院に足を運び、毎回の診察料を払い、最低限のお薬をもらっていた。

先月から皮膚の状態が悪化したということで数週間前に診察を受け、今回は、獣医師と話し合いをしたい、とのことで予約が入っていた。

私達は誰も気が付かなかった。

静かに JC の傍らで佇む杖を突いた彼女が、愛する JC とのお別れを決心していたことを ・・・。

いつも通りに、こちらをちらりと見ては診察室に Ms.D の歩幅に合わせてゆっくり入っていく JC

まだ5歳の JC は、診察室を2度と歩いて Ms.D と出てくることはなかった。

声をあげて Sorry,Sorry Babe ・・・ と泣き崩れる Ms.D の傍らには、まだ温かな JC のでっかい耳と長い身体、そして大きな支払いが残っていた

皮膚の状態は決して良くはないものの、専門医の勧める治療が出来ていればかなり回復の見込みがあったと言う。

でも Ms.D には、その治療に支払っていく経済力がない。

5年間、共に支え合って暮らして生きてきた JC と Ms.D の生活が、その夕方に終わった。

もしも Ms.D が JC を保険に加入させていたら、きっと お金の為 にその命を若くして終わらせる必要はなかったかもしれない。

いや、それでももしかすると、月々の保険料さえ払うのは厳しいのかもしれない。

それは誰にもわからない。

JC と Ms.D の間のことは、何もわからない

飼い主がペットを飼う時点 で、心の中で幾つかの 約束事 をする。

・・・ 何があっても最期までこの子をちゃんと面倒みること ・・・ それが一番の約束事である。

この約束の中には、あらゆる未来への可能性を含めて考慮した上で、決心しなければならない。

もしも愛するペットが将来病気になった時 ・・・ 責任を持って面倒をみられるか?

親は自分の子供が病気になった時に、いくら生活が苦しいからといって治療を放置したり、医師に “ 安楽死お願いします ” とは言えない。

子供が生まれた時から、その責任を全て担う覚悟が生まれる。

ペットも同じである。

ペットを飼った時点から、全ての責任は飼い主にある

だからこそ、飼う前に考えなければならない、本当に何があっても何処に行っても面倒をみられるのか?

 ** 決して、安楽死が良い悪いと言っているわけではなく、また、ペットに最後まで出来る治療をとことんさせるべき、と言っているわけではありません。ただ、飼う前に全ての可能性を考えて飼って欲しいのだ、ということです **

愛する JC を失い、きっと自らを責め続けるであろう Ms.D に心の安らぎが与えられますことを ・・・。
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by yayoitt | 2006-09-05 02:29 | 動物病院レポート ケースから
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