これが最後の … 愛する命
月曜の午後。

エジンバラの8月は、もう秋の風が吹き始めていた。

14才のウエスティー(ウエストハイランドホワイト)のヘイミッシュ

待合室の椅子の下で、静かに佇んでいる。

彼の首からリードで繋がる、その皺くちゃの手は、70代後半の男性。
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Mr.S が彼を見つめている。

それが、ふたりの最後の数分であるのを、きっとヘイミッシュも知っている。

獣医師がドアを開けて、ふたりを診察室へと誘(いざな)う。

そして、数十分後には、年老いた Mr.S が独りで部屋を出て行く。

 どうか自分を責めたりしないで

 ヘイミッシュにとって、最善の選択だったのだから


獣医師の言葉に、大きな涙を幾つも廊下の床に落とす。

ヘイミッシュも知っていた。

最愛の人の、最愛による最高の選択にて …

人は叶えることのできない、けれど、愛された動物だけが与えられる …

その、最高に優しく幸せで苦痛のない、旅への出で立ちという切符。

 そして、これも捨てて下さい

と、リードを獣医師に手渡す老人。
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私は、この時、少し離れた部屋で、ただ声だけを聞いていた。

他の部屋で猫を抱いて、聞いていた。

Mr.S を、他人がいる待合室ではなく、病院の裏口から送り出した同僚 …

彼女が、私に伝えてくれた。

 Mr.S に聞かれたよ

 あの、日本人の子は、今日はいないのか? って


私はよく、彼とヘイミッシュの話をしたものだ。

小刻みに震える手で、支払いをする間、色んな話をしたものだ。

ヘイミッシュの、真っ白い毛の、その犬の話を。

 これが最後の、犬なんだよ

 もう、新しい犬は迎えれないから

 彼が最後の愛する命だったんだよ


そう、彼は同僚に言ったのだと …

彼女を泣かせたのだと。
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年老いた彼を、やはり年老いた妻が待っているだろう。

ヘイミッシュの、青い首輪だけを手に持ち、玄関のドアを開けるのだろう。

そして、そこにはいったい、どんな思い出と月日が、待つのだろう …

優しく愛情深い彼らの上に、秋風は優しくあれと、祈るのである。
by yayoitt | 2013-08-05 03:55 | 動物病院レポート ケースから | Comments(26)
Commented at 2013-08-07 07:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by chocorachocora at 2013-08-07 14:12
愛おしい者との別れ
読んでいて、涙が出てくる・・・

すごくすごくつらいけれど、愛おしい者を置いて先に旅立つよりは
納得のする別れだと思うよ。
きっと、ヘイミッシュは御主人に「ありがとう」と感謝の気持ちを持って旅立って行ったはず。
Commented by 通りすがり at 2013-08-07 15:26 x
最善の選択で最大限の愛情だとわかっていても。決断を下さないといけないのは、すごく辛いですね。私の先代チワワも、選択肢に安楽死があったけれど、決める前に逝ってしまった。病院を出るときに連れて来られたマルチーズがやっぱり同じで、高齢の飼い主さんは泣きながら出てきました。愛するものと別れる時は、いつだって悲しいです。
Commented by nailedit at 2013-08-08 00:18
いつの日か。
自分もそうゆう決断をする日がくるかもしれない。
苦しませたくはないから、迷うことなく自分はそれを選択するだろう。
そう常日頃覚悟を決めている( つもり)
でも…どう?
その時がきたら、決断できるのか?
1分 1秒先延ばしにするのではないか?
別れたくないよ。
最期は、一緒になら辛く無いのにな。
Commented by yayoitt at 2013-08-08 04:21
鍵コメ at 2013-08-07 07:39 さん

最愛による、最も親切で最高の選択と、わかってはいても、
それを選択する 人間側 の悲しみは、深いものですよね …。
私も、心から、彼と、彼の奥様の上に、鍵コメさんが仰るような
穏やかな人生がありますように … と願います。

ヘイミッシュは、きっと、愛された、そして愛して止まない
彼らとの再会を、心待ちにしていると思います。

水は、すっかり引きましたか?
本当に、大変でしたね …。
どうかどうか、これ以上、水の災難が起こりませんように …。

どうか、休めれば、ゆっくりと、お休み下さいね!!
Commented by yayoitt at 2013-08-08 04:24
Maama

読んでくれて、本当に、ありがとうね …。

こういう別れは、文字通りの 断腸の思い なのでしょうね。
でも、そう、Maamaの言うとおり、愛おしい者を置いて先に旅立つ
よりは ... 納得のする別れ ... 私もそう、感じます。

安らかな旅立ちは、ヘイミッシュからの、ご主人へ送る
ありがとうの感謝の示しなんだろうなって、そう思います。

Maama。
本当に、いつも、ありがとうね!! 
彼らは、実に愛おしい存在だよね。
Commented by yayoitt at 2013-08-08 04:29
通りすがり さん

安楽死の選択は、いつも、私は思うのですが、動物にとっては
最高の、最愛による優しく親切な選択 …
けれど、選択する、残される人間側にとっては、とても辛く、
また、いつまでも、本当にそれで良かったのかと、思い返してしまう
そういう選択なのだろうと。

先代チワワちゃん。
ある意味、それは、とても幸せな、ご主人孝行なワンちゃんだった
のですよね。だって、悲しい決断を、ご主人に決めさせることをせずに
自ら、次の場所に行く時間を決めて、旅立ったのだから …。

私はまだ、最愛の命との別れというものを経験していないのですが、
安楽死を、選ぶことのできる心の余裕を持ちつつ、それを
拒否はしない心構えを持ちつつ その時 に構えられるように
なれたら … と思っています。

実際、その時になって、自分がどんな状態になるかは、想像も
できないですが …。

通りすがりさん、本当に本当に … ありがとうございます。
Commented by yayoitt at 2013-08-08 04:36
nailedit さん

とても、とても正直な言葉だと思います。
こんな、毎日、安楽死を目の当たりにして、その選択の、利己的からは
程遠い、まさに利他的で愛情深い選択であると、日々常々、思って
いる私でも、その時が来たら、自分はどうなるんだろう … ? と
正直、わからないでいます。

ただ、こう、思います。

安楽死という選択を、ただ自分が一緒にいたいからという理由だけで
拒否する選択だけはしないでいられるようにしたい … と。

… 別れたくないよ

いつか必ず来る別れだからこそ、この今、愛する命が元気な間を、
思い切り、後悔なく、共に一瞬一瞬を過ごして行きたいですね。

… 最期は、一緒になら辛く無いのにな

本当に本当に、まったくに、同感です。

虹の橋の存在を、信じたいって思います。

本当に、ありがとうございます!!
Commented by ゆた。 at 2013-08-08 13:56 x
この決断は、
身を切るよりも辛かったのだと察します。

時間というお薬が、
いつか、この時の痛みを和らげてくれる
そう、願います。

自分も、
そんなことになったら、
しっかりと痛みを感じて、
きっと、時間がかかっても、
よい思いでに支えられて、
立ち直っていきたいです。

Commented by かな at 2013-08-12 22:52 x
すみません、意味が分からなくて…
安楽死されたという事?
そのワンコは末期の病気で食欲もなく、
歩けず寝たきりで、眠れない程の苦痛にのた打ちまわるとかでしょうか?
Commented by yayoitt at 2013-08-13 05:16
ゆた。さん

すみません!!
お返事がとっても遅れてしまいました!!

本当に、どんな安楽死も、それが愛から来る決断である限り、
ゆた。さんが仰るとおり、身を切るよりも辛いとは思うのですが、
彼のように、もう、新しい命を迎えることはできない、最後の決断
であると思うと、それはもう、深い悲しみだと思います …。

私も、心から、彼の痛みが和らぐことを祈ります。

私も、自分が、その決断を下す時に、いったい、どんな風になるのかは
わからないけれど、自分の思いを重視ではなく、愛する命のことを、
一番に考えた決断をすることができるように …

心の準備だけはしておきたいな、って思います。

ゆた。さん。
本当に、ありがとうございます。
Commented by yayoitt at 2013-08-13 05:22
かなさん

コメントを、本当に、どうもありがとうございます。

英国では、安楽死は
動物が 苦痛 を感じる以前に、また、獣医師が、近い未来に
苦痛を得るであろう、という予測される状況である時、
また、犬や猫としての、クオリティーオブライフが、もう、
残されていないと判断される状況で、この決断がなされることが
多いのです。

そして、それは、最高の愛情から来るものであり、
とても個人的で、他の誰か(獣医師以外)が、その人の決断を
指図するべくものではなく、その命と飼い主さんの間だけの
とてもとても繊細な、決断なんですね。

なかなか、日本では、文化の違いもあってか、
受け入れられない人々も、多いと思います。

人間側のことを考えるよりも、動物側のことを一番に考えて
あげた場合の安楽死という決断です。

本当に、ありがとうございます。 
Commented by かな at 2013-08-13 15:54 x
そうですか…今苦しんでるならわかりますが。
近い未来‥今、ご飯食べ尻尾フリフリする愛犬を殺すのは私には理解できないですし最高の愛情とも思えない。
介護や看護したくないだけかとも思うし、お金かけたくないのかもと思ってしまう。
人間の…自分の親や子供にも安楽死できるならわかりますがね。
犬は人間と違い自殺もしないし、
生に関しても何もかもに真摯ですから。
第一、近い未来って獣医師を信用できるんですね。
獣医師もカスみたいなのもいるのに。
Commented by かな at 2013-08-13 15:57 x
すみません、疑問があります。
クオリティオブライフをそれだけ重視するなら、
イギリスでは抗がん剤なんて使わないのでしょうか?
抗がん剤なんて
もっともクオリティオブライフをなくす薬剤ですもの。
Commented by かな at 2013-08-13 17:32 x
先程は失礼しました。
勿論、どうするかは飼い主の判断だし自由だとはわかっています。
ただ、人間なら、
親子であっても、
各自の判断と選択肢がある。
でも日常すべては無論、命迄左右される犬だからこそ、
擬人化云々ではなく、人間に対して以上に、犬の気持ちを考えなくてはならないのではないかと
私は考えます。
Commented by yayoitt at 2013-08-14 03:57
かなさん

とっても、大切なことを、真正面から、また、正直に感じて考えて
そしてコメントくださり、本当にありがとうございます。

とっても、嬉しいです。

安楽死は、とても 個人的 で 繊細 な選択です。

かなさんの仰ることも、とてもよく、わかります。

英国では基本的に、動物のことを考えて選択、というのが
ほとんどの方の考えの基本になっています。

そして、もしも、獣医師が これから、この命が苦しむことになる と
医学的な根拠を持って診断、判断したら、安楽死を勧めるのが
一般的でもあります。

ペット動物との暮らしの歴史の長さが、日本とは違うからなのか、
英国では、この 姿勢 を強く持っているように思われます。

獣医師の中には、かなさんが言われるように、確かに、色んな方が
いらっしゃると思います。
そういう意味でも、彼らが 頭脳的 だけではなくて 精神的 人道的 にも訓練されて欲しいと願います。
Commented by yayoitt at 2013-08-14 04:02
続きますね。

抗癌剤での治療、延命は、実にケースバイケースですし、
その癌の種類、大きさ、動物の年齢、健康状態などでも
違ってきますが …

私の経験だけから言うと、獣医師が一応、選択のひとつとして
提案はしますが、やはり、副作用の辛さがあるので、あまり、
積極的には勧めません。

私が勤める病院の獣医師は、抗癌治療は、どの子にもあまり
させたくない、という意見を持っています。

理由は、かなさんの言われる通りです。
Commented by yayoitt at 2013-08-14 04:12
続きますね。

私個人のことですが …

日本でずっと、人間の看護師をして来て、また、夫の母親を
10年間という辛い闘病生活(車椅子で、ご飯を食べるのも
排泄も、意志を明確に発することすら自分でできなかった、
けれど、頭ははっきりしていた)の後に亡くして …

ずっと、ずっと、思っていました。

人間にも、安楽死が適応される(そういう国もありますが)ことが
できたら、どんなに、良いだろうか、と。

これは、直接に、患者さんや、義母と語ってきてのことです。

きっと、人は誰もが望むと思います。

… 苦しみのない安らかな死を迎えたい

と。

それは、今の(殆どの国)私たちの生活の中では、叶えられない、
叶えることのできない、けれど、誰もが望むことだと思います。

それを、愛する動物に、与えてあげることができる …。

かなさん、とは言え、私もまだまだ、心の中では葛藤することも
あります。本当に、この時期で、この選択で良いのか? と。

Commented by yayoitt at 2013-08-14 04:12
もう少し …

そして、愛する命に安楽死の選択をした飼い主さんは
ずっとずっと、自問し続けるのだそうです。
本当に、それで良かったのだろうか?
あの時期で良かったのだろうか? と。

本当に、色々とありがとうございました。
生と真剣に向き合う時、死とも、真剣に向き合うのですね。
Commented by かな at 2013-08-15 01:00 x
こんばんは。
主様のこのblogは、前に何かの検索をし、大分前からたまに覗かせて頂いてました。
実は私事ですが…
今迄生きてきた中で、最初で最後という程大好きで愛したワンコを数日前亡くしました。
医療ミス的な事で…設備もあり、患畜も沢山な病院の犬殺し獣医の元に連れて行ったのは私なので、無論私の選択ミスですが。。
Commented by かな(続きです) at 2013-08-15 01:04 x
そんな経験をしたので尚更、今苦しんでないなら、その時迄は甘やかせるだけ甘やかせ、好きな事だけをしてもらい、旅立た方がいい筈だとの思いが強いんです。あの子が恋しくて恋しくてたまらなく…私なら安楽死は、愛犬が苦しみだしてからでもいいのではないか…例え数日でも、美味しいご飯食べ甘える事日々を減らすのはどうなのかと…近い未来…例え、後1ヶ月、いえ二週間でもそんな日々を過ごさせたかったと強く強く思うんです。泣き言と愚痴になってしまいましたが、私にとって全てであった愛犬の死は言葉にならない…死ぬのが怖い私でしたが、本当に愛犬と暮らせるなら、迎えに来てもいいからねと火葬前に言いました
Commented by かな at 2013-08-15 01:17 x
すみません、
苦しみだしてからというのは
安楽死する方々に対してで、
私自身は安楽死はしないと思います。
今は緩和治療や苦痛減らす医療もあるし、よほど苦しむだけの日々でないならと。無論、喋れない動物相手では結局安楽死もエゴだし、安楽死しないのもエゴなのだとは思いますが。ただ、私自身は後悔と懺悔の日々で、一生涯忘れる事はない。1日中くっつき、制限なしに美味しい物食べてもらい、テレビも携帯も用事もせず、あの子のご飯やおやつだけを作り、海浜公園や景色よい公園に連れて行って、プールにいれて過ごし腕の中で逝かせたかったと悔やむしかない私は馬鹿ですが。
Commented by yayoitt at 2013-08-15 04:29
かなさん

こんばんわ。

最愛なる愛おしい命と、お別れをされたばかりだったのですね。
そういう結果に至るまで、そして、それから、愛する命と別れることに
なった経緯 … それは、判りかねますが、どんなに、どんなに
苦しく、辛く、また、悔しくもあったことでしょう。
いえ、過去形ではなくて、今も、どんなにお辛く、苦しみ続けて
いらっしゃるのだろうと、心が、とても痛みます。

獣医師の、不十分な説明、ご主人への明確な説明 …
きっと、そういうインフォームドコンセントに欠けていた
(それだけではないでしょうが)医師だったのではないでしょうか。

心から、お悔やみを申したいです。
Commented by yayoitt at 2013-08-15 04:35
私の姉は最近、安楽死にて、断腸の思いにて、愛する命を、
虹の橋の袂へと送り出しました。
病気による窒息の可能性と、何度かの苦しい咳き込みなどを
繰り返して、安楽死の選択を今、すべきかどうか … とても
悩み苦しみ、もう一晩 … と思った、その夜に、ひどい苦しみで
まさに七転八倒する愛犬を、緊急で安楽死させて貰いました。

彼女は、その、幾つかの 苦しい時 を愛犬に与えてしまい、
自分がもっと早期に決断していたら … と、今もずっと、
後悔して、自分を責めたりしています。

彼女の、正直、血を見るような苦悩の決断を、誰も、決して
 それは、すべきではないことだ とは言うことは許されません。

私は、彼女ですら、後悔しないで欲しいと、思っています。
Commented by yayoitt at 2013-08-15 04:44
安楽死の選択は、↑ で何度か記したとおり、とても 個人的 で
繊細 で、そのご主人と、愛する命との間だけの、プライベートな
ものです。

だからこそ、かなさん、私は、かなさんが、それを選択はしない、
という気持を心から尊重しますし、誰も、それに対して
意見することはできないとも思います。

それが、愛から来ているのだから。

と同じように、安楽死の選択をする人(それが、愛から来るもの
である限り)のことも、決して、他の人が非難をしたり、なぜ? と
疑問を投げかけたりしてはいけないと思っています。

個人個人の、選択であり、尊重されるべくものだと思います。

かなさん。

どうぞ、ご自身を責めたりしないで欲しいです。
愛された命だけが知っています。
どんなに、かなさんに愛されて、かなさんを愛して、そして、彼(彼女)
なりに、その生を全うして、違う場所へ出掛けたのだと。

彼(彼女)は、そんなにも、かなさんに愛された、幸せな、本当に
幸福な、命です。

同じ日本では、安楽死とは程遠い形で、ガス室で窒息死していく
命が沢山あります。

 
Commented by yayoitt at 2013-08-15 04:44

そんな中で、その愛する命が 生きていた、輝いていた時 が
どんなに幸せであったか …。

それは、かなさんの虹の橋の向こう側にいる愛する子が
誰よりも一番、知っているはずですよね。

かなさん。
よろしかったら、何でも、どんなことでも、話して下さいね。
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