Bagpuss(バグプス)は、週に一度、病院にやって来る。
彼は、7歳のオス猫。 6日に一度、膀胱に溜まったオシッコを管で出す為にやって来る。 長年の、市販のドライフードのみの食生活が彼には合わなかったらしく … オシッコに結石ができ … ある日、それが尿管などに詰まってオシッコが出ず … 膀胱がどんどん膨らみ、筋肉が許容範囲以上に引き延ばされ … 筋肉の役割を失ってしまった。 その為に、自ら尿を排出することができない。 彼の命を救うためには、人為的に尿を外に出すしかないのである。 週に一度、1時間少しを病院で過ごす バグプス。 彼を手渡す時に、いつも震えて涙を浮かべているご主人の女性 Mrs S。 バグプス は病院に来る度、緊張の為に唾液(だえき)で前足がベタベタになる。 バグプス が最初に来た日からもう、3ヶ月が経つ。 バグプス はあいかわらず、唾液にまみれて過ごす。 Mrs S もあいかわらず涙ぐんで バグプス を手渡す。 けれど、ここ最近 バグプス とともに、焼きたてのスコーンを手渡してくれる。 週に一度の バグプス のやって来る朝 … 11時のコーヒーの時間を、私たちは楽しみにするようになっている。 明日だね~ バグプス … Mrs S もうすぐ来る頃だねぇ~ そのスコーンは焼きたてで、とっても美味しい。 残念ながら、バターやタマゴの入ったスコーンを私は頂けないけれど。 スコーンのことを褒めたら Mrs S はとても喜んでレシピを書いてくれた。 そこには … Bagpuss Scorn (バグプス スコーン) と書かれてあった。 ある日、同僚が彼女に、私が *ヴィーガン であると漏らしてしまった。 (*ヴィーガン: 動物を使用してあるものを使用しない生活を選択する人、生活) その翌週に Mrs S は尋ねてきた。 やっこ、ヴィーガンの選択は、それは動物の為なの? そうだと答えると、途端に彼女の両目に涙が浮かぶ。 やっこ、じゃぁ、今度はあなたも食べられるスコーンを持ってくるからね その代わりMy boy(私の可愛い子)をよろしく頼むわよ! と、私の二の腕をぐっとつかんだ。 その翌週から、私も食べられるスコーンが届く。 あたたかいスコーンには Mrs S の バグプス への愛が詰まっている。 安いドライフードを与えてきた自分のせいだ と胸を痛める彼女の思い。 この子が生き続けるために … と震えながら車を運転してくる彼女の思い。 そういうものが一杯に。 先週の水曜日の朝 Mrs S に尋ねてみた。 普段の バグプス はどんな猫なのか? と。 Mrs S は震える手を瞬時に止めて … 彼はね、とっても愛情深いネコなの それにね、風格があって、歩く姿とか、とてもゆっくりとこんな風に … そう言いながら、すまし顔を作って真似をする。 拭いても拭いても拭ききれない唾液に戸惑う バグプス を手渡す。 あなたは、私の最高のボーイよ! また涙ぐむ小さな彼女は、軽々と バグプス の入ったバスケットを抱える。 彼女と愛され猫が去った待合室には、まだほのかに甘いスコーンの香りがした。
by yayoitt
| 2011-10-21 03:04
| 動物病院レポート ケースから
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