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こんなとき、さっと母に電話できたら …
いつも母は、黒くて大きな硬くて四角いラジオで聴いていた。

NHKのクラシックFM。

他の局に、チューイングされることはない。

女性には優しくなく作られた土間の台所で。

雨漏りの水の上をつっかけ足で。

夕食の準備をしながら。

朝食の味噌汁を作りながら。

洗濯機の脱水が終わるのを待ちながら。

 やっこちゃん、これはエルガーの行進曲、威風堂々やぞ 

とか

 ハイドンのシンフォニー、えぇっと、何番やったかな 

とか言いながら。

母は、何十年もNHKのクラシックFMを愛して。

口ずさめば、それが誰の何だったかを驚くほど覚えている。

先日、仕事中に …

誰かが 美しき青きドナウ の話をしていた。

その題名を聞いて、頭の中にひとつの曲が浮かんだ。

しかし、それは同僚の口ずさむものとは違う。

 川の歌だよなぁ … あれ? 

ということは、この曲はなんだろうと気になる。

 ええっと … ええっと …

 日本語の歌詞もあったよ、ほらほら …

 そうだ、モルダウよ~ だよ
 

そして、同僚に尋ねる。

 ねえ、ねえ、モルダウ川の曲は、誰だっけ? 

しかし、同僚は モルダウ という題名がわからない。

誰に尋ねてもわからない。

あの有名な盛り上がりは、鮮明に覚えている。

そこで、同僚に口ずさんでみる。

奥さん獣医師が その曲 を知っていた。

けれど、題名も作曲家の名前もわからない。

 ドイツとかチェコとかなんだと思うんだけど … 

すると、奥さん獣医師は、携帯で大学生の娘に電話をかけた。

春休み中の娘が出た。

電話口で、奥さん獣医師が その曲 を口ずさむ。

しばらくやり取りがあって。

 チェコの作曲家だと思うって、多分、ドヴォルザークかなって

 調べてメールで送ってくれるそうよ
 

その日の手術が全て終わり、午後の診察が始まるひと時だ。

そしてしばらく経つと、メールが帰ってきた。

 同じチェコの作曲家だったけど、ドヴォルザークじゃなかった 

Youtubeの添付と共に。

 
 やっこ、これで今夜、すっきり眠れるね 

と奥さん獣医師。

日常の中で あれ? これは何て曲だっけ? ということはよくある。

だけど、口ずさむ曲をインターネットで調べるのは難しい。

 こんなとき、母にすぐ、電話で聞けたらなぁ … 

そう思った、そんな週の半ば。 
by yayoitt | 2011-05-06 04:32 | 遠くにて思う日本
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