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私には、口出しできないこと
金曜の午後の待合室。

列を作ったクライエンツ(お客さん)の中の一人。

上品そうな女性が立っていた。

彼女の番になって、窓口から声をかけると ・・・

 あの ・・・ わたし、74歳なんです

 独りぼっちで寂しいんです

 だから、犬を飼おうと思うんです

 小さいプードルなら、毛が抜けないから、プードルが良いと思います


たどたどしい英語で、一生懸命に話す彼女。
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同時に、私の心の中には、さまざまな 言えない言葉 が浮ぶ。

 74歳で独りぼっちの貴女が犬を ・・・

 もしも、貴女に何かが遭ったとき、誰が犬の面倒をみるんですか?


その言葉を心に抑え込みながら、彼女の瞳を見つめて黙って聞いた。

 私は74歳で、年金暮らしをしています

 動物病院では、年金暮らしの人への割引とかありますか?


私は、この病院では割引はしないことを伝えた。

 どこなら、割引をしてくれますか?

さらに、心の中に暗雲のような塊りが立ちこめるのを感じる。

押し殺す言葉。

 お金がないのに犬を買い、犬の食事や、犬に何かあった時にどうするんですか?

彼女に、チャリティーPDSAの電話番号を教えた。

しかし、PDSAは、年金生活者で、何らかの保護を受けていないと適応されない。

彼女は、時間をかけてPDSAのことを理解すると、とりあえず電話をしてみると言った。

74歳の女性とは言え、彼女はとても元気そうに見える。

その彼女が仔犬を買ったなら、犬が老犬になる15年後、彼女は90歳。
  
忙しい時間の中で、彼女に話せることには、きりがある。

また、彼女が 欲しい と思うものを、私に止める権利はない。
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心の中だけで、色々な思いを咀嚼しながら、立ち止まった。

 まてよ ・・・

 彼女は、犬を飼う前に、色々な準備をしているんだ ・・・

 寂しいからという理由であっても、どんな犬でも良いわけじゃない

 毛が抜けないという、ちゃんと理由も持っている

 動物病院に行くことを前提に、犬を探しているんだ ・・・


そう思うと、少しだが、彼女を応援したくなった。

もう、待合室から外の世界に出て行った彼女を、応援したいと思った。
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その夜に ・・・

電話があった。

たどたどしい英語で。

 私、この電話番号を、動物病院に置いてあった名刺で知りました

 プードルを欲しいのですが、プードルのブリーダーさん、知りませんか?

 もしも、私がホリデーに行く時に、あなたは、犬を預かってくれるんですか?

 幾らになりますか?


彼女だった。

彼女は、犬を買ってしまう前に、色々なことを想定して準備しているのだ。

 彼女と暮らすことになる犬は、幸せになるのだろうな ・・・

漠然とだけれど、そんな気持ちになった。

人が 欲しい と思うとき、それが  であっても ・・・

他人が口出しできぬことは、沢山ある。

ただ、拳を握り締め、祈るように見つめるしかないことが、沢山ある。
by yayoitt | 2010-10-01 02:50 | 動物病院での出来事、仕事
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