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朴の木(ほおのき)の話
その朴の木は、私がまだ幼い頃にやって来た。
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山菜を取りに出掛けた母。

その日は、なかなか山菜が見つからずにいたと言う。

がっかりして、殆ど空の編みカゴを提げて帰ろうとした時。

丈の低い、小さな木を見つけた母。

 収穫がないから、それでも持って帰ろう

と、思ったそうで。

根っこから小さな木を摘み取り、家に持って帰ったのだと。

そして、家の裏庭に植えたんだって。

それは年々、太くなり、大きくなり ・・・

大きな葉を広げ、春には顔くらいもある大きな白い花を咲かせ。

立派な朴の木になった。
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私の、裏庭の記憶には、いつもこの朴の木がある。

落とした大きな葉で、母が朴葉寿司を作ってくれたこともある。

皿の代わりにもなるほどに、大きな頑丈な葉。

去年も、同じように堂々と立つ朴の木を見上げていた。

先日、母と話をしたとき、彼女がこう話してくれた。

 ここ数年、大きくなりすぎた朴の木が、隣の家に影を作ったり

 隣近所に葉っぱを落として、迷惑をかけて来た

 本当に哀しかったけれど、仕方がなく、朴の木は切ったんだよ


軒先から、それだけ首を高く空に伸ばしていた朴の木。

もう、伸びることも、葉を落とすことも、花を咲かせることもない。

寂しげに母が続けた。

 もしも私があの時に、あの小さな木を持ち帰りさえしなかったら

 あの朴の木は、山の中で伸び伸びと葉を茂らせて暮らし続けたんだろうに

 ほんとうに ・・・ 可哀想に ・・・


母の傷心は、痛いくらいによくわかる。
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決して豊かではなかった頃、子供の声は賑やかで ・・・

その子供が1人、また1人と家を出て ・・・

時々に、小さな子供を連れて帰り ・・・

両親2人は、変わらずに毎日を送り ・・・

そして家に戻った者が、朴の木の下に立って、空を見上げた ・・・

朴の木は、40年近くも、私達の家族を見続けてきた。

静かな時を、賑やかな声を、耳を澄まし続けてきた。

もうすぐ、その朴の木に会えるけれど。

空を見上げる代わりに、裸足になって、その根っこを感じてみよう。
by yayoitt | 2010-04-14 04:05 | 遠くにて思う日本
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