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沈黙に微笑み
週に2回、月曜日と水曜にやって来る業者さん。

動物専用の火葬業者のドライバー。

病院の一番涼しい所に設けられた、遺体安置所の鍵を渡す。
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前回に預かっていった動物の身体は、飼い主さんの希望によって帰って来る。

飼い主さんが希望すれば、灰となって帰って来る。

灰になった愛しい命は、それぞれの希望の入れ物に入って帰って来る。

すぐに思い出の場所に蒔く為に、簡単な箱に入っている子。

そのまま、ずっと家の中で共に暮らす為に、特別な箱に入っている子。

さようならをして、そのまま形として残る物は何一つ持たずに帰る人も多い。

ある、お年寄りの女性は ・・・

 私が、どれだけこの世にいるかわからないからね

と、空っぽになった家に、ただ想い出だけを胸に抱えて帰って行った。
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先週、14歳で安楽死として送られたゴールデンレトリバーの サム

彼が、大き目の箱に入って病院に帰って来た。

飼い主さんに電話をして サムが帰って来ましたよ と伝える。

その翌日に、飼い主の男性が サム を引き取りに戻って来た。

あの身体の大きさとは、比べ物にならない小さな箱に収まった サム を手渡す。

何も言葉は交わさない。

ただ、彼はずっと微笑を浮かべていた。

きっと必死に ・・・ 微笑を。

私達は、飼い主さんの様子に合わせて、言葉をかけたり、何も言わずにいたりする。

彼らは、愛してやまなかった命を、この場所で看取り、送り出しているのだ。

その場所に、再び戻ることの辛さ、切なさ、悲しみは、測りきれない。
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サム の飼い主さんは、両手で四角く角ばった サム を抱きしめると ・・・

やっぱり一生懸命な笑顔で、リボンの付いた平たい箱と封筒を渡してくれた。

ただただ流れる沈黙に、彼の笑顔はまるで、声をあげているようだった。

大きな声で泣いているようだった。

何も聞こえないのに、微笑んでいるのに、泣いていた。

背の高い彼は、微笑んだままで サム を抱き上げると、重たいドアから出て行った。

平たい箱は、チョコレートの詰め合わせ。

そして、封筒の中のカードは ・・・ 手作りのカード
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去年の晩夏 サム が歩けなくなる前に行った海辺での写真のカード。

そこには、感謝の言葉と共に サム への想いが綴られていた。

笑顔の中には、そのどんな表情よりも ・・・

寂しい微笑みというものがある。

愛し、愛された サム の毛並みが

海のしぶきを受けて、キラキラと

輝いた。
by yayoitt | 2009-02-28 05:04 | 動物病院での出来事、仕事
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