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カテゴリ:穂高の恋人達( 17 )
蘇えり 振り返る
 その人は

 なんの前触(まえぶ)れもなく私の前に現れる

 蘇える

 振り返る
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 20年という月日とは、関係がないといった様子で

 あの日と同じ微笑を見せながら

 白い壁に囲まれた廊下の角に、立ちすくんでみせるのだ

 人の目を気にするような、そんな表情をしつつも

 驚いて目を見開く、それは、あの夏の山で出会ったときと同じ

 やさしい瞳と、その口から零れる、かすかな音

 蘇える

 振り返る
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 なのに、あの日と違うのは

 その高き標高の夏の新鮮な日照りだけではなくて

 それが

 人の目を憚(はばか)っているということ

 背後の誰かを、気にかけているということ

 それはきっと

 もしかしたら

 20年の間に、あなたが 得た もので

 私たちが なくした ものなのかも知れない

 蘇えり

 振り返る

 距離は縮まらないままで

 2人はもどかしさで声を詰まらせ

 きびすを返す方向さえ

 わからないで

 途方に暮れて

 目尻に涙を溜めて

 目を覚ましたりするのだから … しょうがない

by yayoitt | 2014-04-20 02:50 | 穂高の恋人達 | Comments(3)
U と I の交差点
夢の中で

時々 …

再会するその人は

あの日と変わらぬ

眩しい目をしながら

冷たく白い壁の廊下に立ちすくむ
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近付いて

そっと触れようとする私を

とても不安げに

とても苦しげに

とても懐かしげに

見つめる間

始終小刻みに動き続けながらも

瞳は私を捉えている

誰かに見られはしまいか

誰かが来はしまいか

そこに気が散っているのを

ちゃんと私は知っているくせに …

平気を装って近寄る

もっと近付く
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ただ

私の名前を呼ぶだけの

その数秒を

その人は苦しみ傷付き怯えている

それを何時間ものフィルムを見るように

じっと見つめている私

触れないで

抱きしめないで

けれども

離れないで

手放さないで



口にできずに

ある物影に飛び上がるようにして

彼は去っていく

そこから

白い壁の角から

隙間から

夢から

私の記憶から …

by yayoitt | 2013-03-14 05:57 | 穂高の恋人達 | Comments(2)
恋愛 親愛 友情 そして愛情 
彼女は、そのときに願った

決して口にはしなかったけれど

強く願った

 恋愛から、親愛にはなれないものか 



しかし、それは叶わなかった
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やがて2人が離れ離れになり …

10年の月日が経った時

彼と彼女は、再会した

彼女は尋ねた

 親愛になれず、恋愛の日々も終わった今 …

 愛という感情は抜きにして

 情があるのなら …

 私たちの間に、友情は芽生えないものか




しかし彼は応えた

 それはできない



そして、こう続けた

 僕にはまだ、君への恋愛の思いしかないのだ

 だから、友情にはなれないのだ




彼女は、その言葉を噛みしめた

ゆっくりと反芻しながら

その意味の深い部分を理解した
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それから、親愛でも友情でもない思いを抱えて

まったく別々の場所で、それぞれ生きていくこと

それは、過去に生きることであると

寂しさを感じながらも

頷いて、右手を差し伸べると …

彼は、その手を強く握って

お互いの来た道

お互いが行く道へ

振り返ることなく歩き出した

あの頃も …

道標がなかった道

自由ばかりで、縛り合えもしなかった道

ただそこには

共有した過去だけが

やさしい影となって

一生、足元から消えることはない

そうやって生きる未来である


by yayoitt | 2011-07-26 03:44 | 穂高の恋人達 | Comments(4)
夢の続き ・・・ 
時々、そこに戻る。

そこ、とは。
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時に、それは病院であったり

大きな屋敷の中であったり

山小屋の畳敷きの座敷だったり

喧騒の飲み屋だったりするけれど。

そこには、私と貴方がいる。

もう15年以上も前の私と貴方が、居心地悪そうに座っている。

他人の目を気にしている。

そうしたい という思いと それができない モラルが交錯する。

困惑して、取り留めなく時間が流れる。

私と貴方の間に、友人や同僚や他人が世間話をしている。

その黒い頭々を越えて、時々に目を合わす。

私が席を立つ。

すると、貴方も席を立つ。

そういう合図がある。

立ち上がっても、何処に行って良いのかわからない。

触れたい という思いと 触れてはいけない モラルが格闘する。

いつも、人の目を気にしている。

心が注ぎ出たまま、どうしようもない。

近くに ・・・

2人きりに ・・・

なりたいと願いながら ・・・

ふと、貴方の歪んだような、笑ったような唇を見失う。
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そこで、いつも醒める。

覚醒する。

目覚める。

不完全な恋の、続きには、行き着く所はない。

それが、夢でも。
by yayoitt | 2010-08-13 03:06 | 穂高の恋人達 | Comments(14)
やつの、可愛いやつ
彼はいつも私を、ちゃん付けで呼んでくれた。

甘ったれの私は、25を過ぎても、そう呼ばれることが嬉しかった。
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冷たい部屋の床を、裸足の爪先立ちで歩く夜更けも。

乾いた額が、汗ばみ始める夜明けも。

彼は私を探すと、優しい声でそう呼んだ。
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白い雪が、全ての音を吸い取る間 ・・・

誰よりも私自身が、この名前を愛しく思っていた。

切なさを、春の風が密かに撫でていく間 ・・・

その口元から零れる  を、心から愛した。

そして、生まれて初めて、自分を 素敵 だって思わせてくれた。
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月に一度ほど彼が帰る場所、雪の落ちない喧騒の街 ・・・

そこには、ちゃん付けで呼ばない誰かが居て。

彼は仕方なさそうに、彼女の話を手短に話す時 やつ と呼んだ。
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決まった月日が流れれば、その街へ帰る人。

そこで、多くの人々に祝福されて、もう2度とこの田舎町には戻らない人。

そんな彼は、なんだか気だるそうな演技をしながら やつ の話をした。
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だけど、変わらず私は ちゃん付け で。

可愛い やつ を、彼の瞳のずっと奥の辺りに見つけたりして。
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浮んでも

揺れあっても

岸辺に辿り着いても

少しづつ、蒸発していっても

燻(くすぶ)っても

そのまま気化したとしても


ちゃん付け の私は やつ には敵わないと思い知り。
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テレビを消し忘れた、青く暗い海の底。

さっきまで、私の名前を呼んでくれた、彼の顔を覗きこみながら立ち上がる。

台所の小さな掛け鏡を覗いて、呟いた。
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だって、やつ なんだもんね ・・・ 

って。
by yayoitt | 2008-10-30 03:49 | 穂高の恋人達 | Comments(8)
ふたり
乾いた雪に深く覆われたアパート。
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殺風景な空間に、浮遊する面影と、確実な床の軋みやテレビの音。

その場所を、あなたは 仮住まい と呼び、私は  と呼んだ。

あの真冬の夜には、見えなかったようで感じていた未来。

静かな田舎町での数ヶ月を、あなたは まで と言い、私は ずっと と呼んだ。

あなたが田舎を離れた後に、導かれて近付く、岩波の器(うつわ)の奥深く。

喧騒を忘れ去り、空気や気温が全くに違っている真夏の剣(けん)。

天空を泳ぐ、盛夏の鯉のぼりが待っていた。
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慣れ親しんだ都会のコンクリートに、肌を焼かせた人影。

あなたを見つけた時、私は あ ・・・ と声を出し、同時に あ ・・・ と聞いた。 

眩しそうに、優しい目で出迎えたあなたは おかえり と囁き ・・・

私は不思議と ただいま と答えたのだった。

頂上で星を数えながら、あなたが 寒い? と尋ねるから ・・・ 寒い と言った。
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指の付け根が痛むほど、握った手がじんわり感覚を失い出したのは。

遮るもののない風の寒さのせいなのか、遥か下界に見える明かりの集合からか。

きれい と空を見上げて呟いた時、あなたは しあわせ と ・・・

それが問いかけだったのか、感嘆なのかも、もうわからなくなってしまっていた。

全てが、剥き出しになった山の頂上。

その表面で佇んだ時間の重なり。

耳を済ませれば済ませるほどに、消え行く音たち。

きっと、あの夏、あなたは 現実を逃避して そこに赴いたのだろう。

それも知っていたけれど私は、そんな 叶わぬ現実を実現 させる為に登った。

下る夏の頂から、あなたは ずっと見ているよ と言って動かなかった。

振り向いては見上げる度に、あなたの姿が小さくなった。

寂しい人は、そこに留まりたい と願い ・・・

長く引いた陰は、そこに私の居場所はない と悟ったのだった。
by yayoitt | 2008-08-25 04:25 | 穂高の恋人達 | Comments(12)
過去変換予想図
描くのは、未来予想図 ・・・。

描いてきたのは、未来予想図 ・・・。

だけど、ふと、過去に戻ってみたくなる。

思い出しては もし の繰り返しを投げかけてみる。
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 もし あの日に別れなかったら ・・・

 もし あの雪の夜、出会わなかったら ・・・

 もし 朝もやの駅の雑踏で立ち止まらなかったら ・・・

 もし あのまま私が、彼を待ち続けていたら ・・・

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過去の出来事が、過ぎたことが、その方向に行っていなかったらと想像する。

一生の中であんなに愛した人、愛する人はきっと、いないだろうって思う。

若い時代に、出会えて本当に良かったと、心の底から思うけど。

どうしてか、彼と一緒になれなかったことを、悔やんだことは無いような気がする。
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2人は何故か、出逢った初めから、わかっていたみたいに。 

一緒の未来はない のだと。

最初から、未来に諦めていたし、だからこそ、がむしゃらに愛せたんだと。
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 宇宙(そら)に放り出された2人には、1つの決まった道はなく ・・・

 無限の自由と、数え切れない選択肢が散らばり ・・・

 だけど、どの線も交わることはなく、ただ平行に伸びてたんだった ・・・

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若い魂を、向こう見ずに、誰かをただ懸命に愛せたこと。

それは辛さや、悲しみや、一時的な後悔をもたらしたけれども、その経験は宝になった。

もし ・・・ はいらない。

もし ・・・ はなくて良い。

そう思える過去って、なんだかきっと、幸せなんだろうな。

最後の朝から10年後に、私達は再会したけれど ・・・。

あなたも私も、同じ気持ちだった。

あの日の2人を、止まらせていたいだけ。
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もし はない。

友達 にはならない。

一緒の未来は、交わる道標は、存在しない。

いつかきっと、何処かで出会うと思うけど、やっぱり何も変わらない。

あなたは、あの日のあなたではなく、今のあなた。

私は、あの日の私ではなくって、今のこのまんまの、あなたとの過去を宝と思う私。

だから笑顔で、会えるに違いない。

出会えて良かった ・・・。
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            あの日

                   あの雪の駐車場

    あの白出(しらだし)のコル

                       あの燃えるような勿忘草

       あの遠くに響く夜行列車の軋む音

                           あの笑顔

              あの留守番電話の震える声

     あの白いシャツ

                    あのポプリの葉が窓を叩く音

 あの白樺並木

           あのわさび色のネクタイ

              あの溶け出したアイスクリーム
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現在と未来を、それは繫がない。

ただ、過去が漂う、大切な想い出 ・・・。
by yayoitt | 2008-05-29 04:45 | 穂高の恋人達 | Comments(14)
爪先立ちの Tiffany 
喧騒に包まれた居酒屋。

彼の声が聞こえない。

同僚の笑い声 ・・・ 

誰かのタバコの煙 ・・・

蹴散らされた靴の残骸 ・・・

千鳥足のカラオケ ・・・

のどを嗄らして、笑顔でお喋りする小鳥たち。

テーブルの向かい側で、盛んに隣の美人の同僚と笑う人。

見て見ぬ振りをしながらも、瞬間、見据えると目が合ったりして。

隣の美女がマイクを握ったから、あなたはいかにもつまらなそうに欠伸をした。

低いテーブルに肩肘を付き、仕方なさそうに私の顔を見る。

いつもと同じ、何も言葉はない。

尋ねないし、問いかけない。

ただ、今を浮ぶ2人と知り尽くしている。
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しばらく、空中を指先で子供のように遊んだ後、あなたが風を吹く。

声は聞こえない。

ただ、その仕草だけで理解する。

喧騒と止まらない笑い声。

来月は私の誕生日。

 指輪 ?

 ネックレス ?

 それとも、イヤリング ?

あなたから、初めてのプレゼントになるね。

 約束はいらないけど、ここに摑まって欲しい
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軽く指を突き出してみせた。

照れくさそうに、あなたは微笑んで頷くと、隣の彼女がワインを注いだ。
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名もない金色の指輪が、あなたからのメッセージ。

オープンハートの、悲しげに重たい指輪は、約束のない自由。

どこかの店で、あなたが見つけた指輪。

それは唯一で、誰も知らない2人の秘密。

精一杯の笑顔を与えてくれた、その不思議な指輪は宝物で。

ブランドなんて何も知らない、雪国の田舎育ちの私は、嬉しかった。
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約束の期限を忘れた次の年 ・・・

あなたは2度と聞かなかった。

手渡された水色の小箱は、私でも知っていた Tiffany 。

シルバーの滴が、床に落ちて弾んだんだっけ。

銀のオープンハートを首に下げると、涙が出た。

2人の季節は、唯一になれずにキラキラ揺れて。

まだ頬の赤い私の首には、なんだか似合わない気がしたのに ・・・

 とってもよく似合うね

去年、絡めた指を触れもしないで微笑んで言ったんだったね。

3度目の冬が到来する前に。

初めての冬をあったまったことさえ、ぼやけて行ったんだった。

喧騒にかき消されたのは、確かにあなたの声だけでは、なかったんだ。

雪の積もらないコンクリートの街に。

あなたの背丈分の空間まで、失ってしまった。
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by yayoitt | 2008-01-21 03:27 | 穂高の恋人達 | Comments(11)
キラキラ、光る、光る
わさび色のネクタイが飛び出すと、顔を上げて見つめた。

きっと私は、この人を好きになる ・・・ 。

そう感じる自分に戸惑うと、目の前の白い肩の線が歪んだ。

そんな直感がどうして、心に沸いたのか ・・・ 湧いたのか生まれたのか。

知っていたのか、気が付いていたのか ・・・。

予想外だったのか、ちゃんと予測していたのか。
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初めての出会いは、そんな風で、始まった。

窓の外を見ると、大きな粒の雪が激しく降り始めていた、1月。

恋愛の最初は、色んなことを自分自身の中で約束する。

私は決して、問いたださない ・・・

私は絶対に、過去のことは聞かない ・・・

私は焼きもちなんて妬かない ・・・ 

信じているから ・・・

その約束は最後まで守られたのが不思議だった。

いつまで経っても、馴れ合えない、馴れ合ったら壊れる何かが薄い氷のように張っていた。

2人は何故だか、ある部分で深く知りすぎているのに、肝心なことは何も知らない。

背景だとか、関係だとか、状況だとか、過去だとか未来だとか。

そういったことは一切、語らない。

言葉は余り意味がなくって、沈黙を愛した。

幾夜も、雪深い冬の田舎町で、言葉は全て吸い込まれてしまっていたのかも知れない。

2人の間には、道標(みちしるべ)がなかった。
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ただ、漂うしかなかった。

浮く ・・・

ぽっかり浮ぶ ・・・

夜の静寂へと、流れる。

流れても、どこへも行き着かない。

そこには自由しか存在しないのに、2人は、自由によって縛られていた。

漕ぎ出すと行く当てはなく、漂うしかない ・・・
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沈むよりも蒸発することを望み、泡となってはじけて消えてしまえたらと願った。

空に上れば、田舎町の冬の寒さに凍りつき、また再び、この庭へと降りてくる。

一緒に迎える春の庭。

音もなく降りてくる、それは結晶。

涙の形、ハートの形、罪の形 ・・・
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降り積もると輝き出す思い出になった。

キラキラ、キラキラ、光るだけ。

過去はただただ、光るだけ。

by yayoitt | 2007-09-28 03:32 | 穂高の恋人達 | Comments(6)
恋の話 冬のアパート 春風
日にちを重ねるごとに、思いが膨らむ。
時間を重ねるごとに、この部屋が愛しくなる。
笑顔を見るたび、口数が減る。

冬のアパートには、沢山の どうして? がただただ降り積もった。
どうして私はここにいるのだろう?
どうして私達はとどまっているのだろう?
どうして2人で違う道に歩き出せないのだろう?
どうして心は、身体と切り離せないのだろう?
こうして夏を迎える頃、何も語らなくなるのだろうか?
そうして夏を目前に、あなたはこの田舎町を去り、私は立ち止まるのだろうか?

冬は長かった。
そして、寒かった。
だけど、幸せだった。

ある日、ぽたりと顔に落ちた。
屋根の雪だった。
何ヶ月も、覆い尽くしていた白の結晶が、初めて壊れた。
壊れて、形を変え始めた。
私達の心の形も、あふれ出した。
あふれて、あふれて、流れ出す。
枯れることなく低い方へ、辛い方へ、悲しい方へ、合流しては膨らみ流れていった。
水滴が音を立て出すと、長い間 開けなかった窓を、ぎしぎし音を立てて開けた。
2人の空間に、気流が起こり、髪を撫でて通り抜けた。
それは閉ざされた玄関の扉に当たり、跳ね返るけど、帰る場所もなく滞(とどこお)った。

もう、汽笛は響かなかった。
夜の街を、2つに切り取ることなく、あの街に停まっていた。
冬の夜行列車は走らない。

窓の外に手をかざすと、掌に体温を感じる。
目を細めながらその温度を探したら、すっかり溶けた雪の下で、数本の花が咲き出していた。
花が咲くのを恐れていた。
春が来るのを、苦しいと思った。
そして、その青い小さな花びらから思いがけず香りが漏れていた。
その花を私はよく知っていた。
皮肉だと思いながらも、何て綺麗に優しく咲くのだろうと見つめた。
勿忘草(わすれなぐさ)は、繁殖力がとても強い。
一本土に植えると、何百本にも増え、1年待たずに秋に狂い咲きする。
それだった。

一度、心に植わった思いは、私を覆いつくした。
香りを放って咲き乱れた。
悲しい事実を抱えて、明日も明後日も咲いてやろうと懸命になって。
窓から入った春の風は、勿忘草の香りで満ちていた。
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by yayoitt | 2005-02-23 05:51 | 穂高の恋人達 | Comments(0)