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沈黙という空間が伝える心
私たちが、病院に来た動物の飼い主さんと顔をあわせる窓口
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          待合室から見える窓口 ノーマンと

オフィスと待合室の壁に開けられた小さな窓。

その窓口に向かって左側には、ファイルが乱雑に並び、PCが置かれている。

正面にはレジとかクレジットカードの機械、そして右側には小さめの棚がある。

その棚は3段で、一段目には、飼い主さんから頂いた最近のカードがしばらく並ぶ。

その2段目、私は爪先立たないと届かないそこには、時々、茶色の大小の箱が置かれる

箱は配達されると、とても大事に、そぉっとそこに置かれる。

茶色いダンボールのそれには、XXX Mr.xxx と、動物と飼い主の名前が記されている。 

虹の橋を渡った動物の、遺骨(灰) が入っている。
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病院で、安楽死で亡くなった動物や、家で亡くなった動物が病院に運ばれると、
その身体をどうするかを飼い主さんに尋ねる。

 そのまま燃やしてください

 蒔けるように灰にして返してください

 灰を取って置けるように壺に入れてください


その希望に従って、業者に身体を持って行って焼いてもらう。

90パーセントは、蒔けるように灰にして欲しい、というものである。

思い出の場所、いつも遊んだ庭、泳いだ川、一緒に登った山の頂上 ・・・

愛する動物を、風に任せて散らせてあげるのだ。
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遺骨(灰)が戻ってくると、飼い主さんに電話をする。

 “ XXちゃんが、戻ってきました ”

それを聞いただけで泣いてしまう人もいる。
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そして窓口に、飼い主さんがやって来る。

先日、愛する命と一緒に、最後に訪れたこの場所に ・・・

待合室に入っただけでも、思い出す、愛するあの子を ・・・

窓口に戻ってきた飼い主さんは、その瞳で、戻ってきた理由を知る。

彼らの瞳は、悲しみと戦いながら、揺れているんだ。

その瞳の奥に、多分、思い浮かべているであろう、愛おしい命の姿。

最期の瞬間、呼吸、振った尻尾を。
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私は、窓口を挟んで飼い主さんと対面すると、何も言えない。

せめて出た言葉 ・・・ 

 “ あなたは、大丈夫ですか? ”

その私の言葉に、口から出る言葉でもって返答できる飼い主さんは少ない。

ただ、戦って堪えていた涙を、震える頬で必死に奥に留めようとする。

そして、ふっと微笑んで見せると同時に、涙も零れ出す。

大きかったあの子が、こんな小さな箱に収まっている ・・・

ミャーと答えた彼は、何も言わずに静かに飼い主さんに抱かれる ・・・

窓口から、その茶色い四角い箱を手渡す間、私達は何も交わせる言葉はない。

沈黙という空間がひっそりと漂うだけで。

何度も首を縦に振って、自分自身に言い聞かせるように背中を向ける人たち。

言葉のない空間で、私はいつも、言葉以上に強く伝わる 思い を知る。

その人が、両手で箱を抱えてドアを開けながら、そっと箱にキスをする。

開けはなれたドアから、まだ寒い春の風が窓口まで届く ・・・。
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あ ・・・ 今、確かに ・・・

あの命と飼い主さんは一緒に、並ぶようにして、ここを出て行ったことを知るんだ。
by yayoitt | 2008-04-09 05:22 | 動物病院での出来事、仕事
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