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妖精になったTinkerの温もり  
15歳のラーチャー(グレイハウンドとの雑種犬のこと) Tinker(ティンカー) が、左前足をかばうようにして歩き始めたのが1ヶ月ほど前。

年齢から、関節の痛みなどがあってもおかしくはないが、他の関節に痛みはないようである。

獣医師が診察で もしかしたら、骨肉腫なのかも知れない と診断をした。

それをハッキリさせる為に、全身麻酔下でのレントゲン写真 を撮ることとなった。

ご主人の Mr&Mrs J(J夫妻) から昨日、電話があった。

 もしも、骨肉腫だったら、そのまま安楽死させてあげて欲しい
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動物病院では、手術をするまでそれが、予後の悪いものかどうかわからない場合、
手術中にその結果がわかったら、その場で飼い主に電話をして結果を伝え、
全身麻酔で手術台の上で眠っている間に、逝かせてあげる という選択を与えることがある。

おなかを開いたままで、飼い主に電話で獣医師が結果を伝えると ・・・

 確実に予後が悪く苦しむのなら、そのまま眠らせてあげて欲しい

と言う飼い主さん。

 今回は、おなかを閉じて、短くてもせめて数日、一緒にいたい

と言う飼い主さん。

どちらも、断腸の思いでこの、手術台からの一本の電話を、待っているのだ。
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Tinker(ティンカー)の場合、おなかを開いたりメスを使うわけではないが、レントゲン写真にて、それが悪性のものであれば、判断は付く。

今日のダイアリーに書かれた Tinker(ティンカー) の手術予定は ・・・

 G/A X-Ray poss Euth
(全身麻酔 レントゲン撮影 安楽死の可能性あり)


私は、こういう手術予定が一番、辛い。

全身麻酔なので、朝から食事を貰えず、おなかを空かしている愛しい命

一番、側に居たい飼い主さんから離されて、
その最期かも知れない時間をケネルで過す命

前の夜を、もしかしたら最期の夜、もしかしたらまた一緒に過せる夜、
わからずに過す飼い主


麻酔下でそのまま眠りにつける、その優しさは理解できても、どうしても悲しく辛い。
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Tinker(ティンカー)は、今朝、泣きながら連れて来た飼い主さんと一緒に待合室にいた。

Mrs.J は、Tinker(ティンカー) のおでこにキスをし、重い戸を開けて帰って行った。

 ずっと電話の前にいますから ・・・

15歳の Tinker(ティンカー) は、とても大人しい犬で、自らケネルに入ってくれた。

もしかしたら、それが最期の数時間になるかもしれない彼女の為に、私は、温かいブランケットをケネルに敷いた。

そこで彼女は、お水を貰うことも、ご飯を貰うこともなく、レントゲン撮影の番が来るまで待っていた。

両目が白内障で少し白く濁っている。

目の周りも、白い毛で覆われている。

歩く時に少し、左前足をかばうようにして飛び跳ねた。

忙しい朝の病院、何度も何度も、行けるだけ彼女の元に行き、話しかけた。

 Tinker(ティンカー)、Tinker(ティンカー)、本当に良い子だね ・・・
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獣医師が、Tinker(ティンカー)に全身麻酔の前注射をするから、連れて来てと言う。

Tinker(ティンカー)は、ケネルを自ら出、足をかばいながらも嬉しそうに階段を下りた。

そして、外に通じる出口のドアの前で立ち止まった。

 ごめんね、Tinker(ティンカー)、そっちじゃないんだよ

Tinker(ティンカー)は、すんなりと私に付いて、診察室に入って来た。

体重を量り、獣医師が注射の準備をする間、私は Tinker(ティンカー) と座っていた。

彼女は、お座りをすると必ず、右の手を私の腕に乗せた。

部屋の外で音がすると立ち上がっても、また座り、そして右手を私の腕に乗せる。

 多分、こうしてずっと、飼い主さんに愛されて来たんだろう ・・・

 あぁ ・・・ どうか、彼女がもう一度、おうちに帰れますように ・・・


丸い白い瞳は、何も疑うことなく、ただ右手を預けては、私が彼女に触れるのを待っている。

注射を打ち、少し眠くなるまでの20分ほどを、Tinker(ティンカー) と過ごした。

 15年の間、どんなことがあったんだろう?

ワイヤーの毛を撫でながら、彼女の少し痩せた骨と肉を掌で感じる。

眠気と戦いながら、身体を立て直す Tinker(ティンカー) を、そっと座らせる。

するとまた、右手を差し出す ・・・。
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Tinker(ティンカー) との数十分はまるで、もう何年も、彼女のことを知っているかのような気持ちにさせた。

Tinker(ティンカー) は、そんな犬なんだった。

前麻酔薬が効き、眠くなっている Tinker(ティンカー) は手術台に乗せられ、そして全身麻酔が施された。

彼女が眠っている間に、数枚のレントゲン写真は、はっきりと悪性の骨の癌を写し出した。

獣医師が飼い主さんに電話をする。

 悪性の腫瘍で骨がボロボロになっているので、容易く骨折するかも知れない。

 できることは、内服薬で現在の痛みを和らげ、骨折しないように注意して生活すること。

 彼女の年齢から見ても、切断術など大きな手術は勧めたくない。


最期の選択が、飼い主さんに問われた。

 そのまま、眠らせてあげてください ・・・

もう眠っている彼女に、お別れをしには来ないということだった。
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ほんの1時間前まで、丸い目で私を見上げていた Tinker(ティンカー)

右足を私の腕に預けていた Tinker(ティンカー)

悲しかった。

おなかを空かせたまま、喉が渇いたまま、飼い主さんから離れたまま、逝かせることが本当に、悲しくて辛かった。

痛みがひどくなったり、いつ骨折してもわからない爆弾を抱えて暮させるよりも、
何も知らないまま、このまま静かに眠ったまま逝ける方が幸せなのかもしれない。

それは頭でわかっていても、悲しかった。

Tinker(ティンカー)

Tinker(ティンカー)

Tinker(ティンカー)

頭で理解しても、涙が出る。

あの目を、あの腕の温もりを思い出すと泣けてくる。

それが、最善なのかもしれないと、わかっていても胸が痛む。

泣いてはいけないと、こらえても、湧き上がる感情は、どうしようもない。

もう、呼吸をしない Tinker(ティンカー) の口元に、お別れのキスをした。 
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金曜日、雨上がりの少し焼けた夕空 ・・・

白く濁った細い月が、春の寒空に浮んでいた ・・・

まぁるい、彼女の瞳を思い出しながら、寒さに肩を縮めて人込みを歩く。
by yayoitt | 2008-03-07 04:00 | 動物病院レポート ケースから
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