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交換日記と偽善心 ・・・ 幼少の頃の思い出
 ・・・ 子供とは、その小さな身体で実に多くのことを考えているものである

多くを考えるのだけれども、深さがないことが多い。

それは経験によって奥行きや広がりを持つもので、経験年数の少ない子供には、到底、仕方のないことなのかもしれない。

田舎町の小学校の木造校舎は、富山湾へとそれが注ぐ荒城川の裾にあった。
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ベビーブームの子供たちで、1万5千人ほどの町なのに小学校は2つもあり、そのうちの大きい方に私は通っていた。

その頃、全校生徒数は1千2百人を超えていたが、現在は6百人ほどしかいないと聞いて、少し寂しくなる。

私が3年のことだったと記憶する。

入学した時から複数の子供に苛められていた私だが、その頃には、おどけて笑いをとる ことで友達を作っていた。

おどけ という名の鎧を身に付けて自分に自信を持っているようで、胸を張っては歩けない、そんな子供だった。
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男女20人ずつ程のクラスには、まるで自分が2年前そうだったかのように、大人しい女生徒が苛められていた。

皆、山に囲まれた田舎町の子供なのに、更に山側から通う子供を田舎面の子供がからかい、仲間はずれにする。

彼女のことは誰もが、名字で Kさん と呼んでいた。 

笑うと八重歯が現れ、更に歯茎を見せる、それを気にしてなのか、口をいつも手で隠して喋る為に声が小さく、大人しいイメージがあった。

毛細血管が透き通って見えるくらいに色白の彼女は、授業中によく鼻血を出した。

Kさん には友達がいなかった。

男子生徒から苛められるのを、側で見ていた女子生徒は、自ずから彼女には近付かなかった。

そうして Kさん はいつも、クラスの隅で指をくわえて立つようになり、誰も彼女に声をかけなくなった。

私の胸の中には、2つの感情が浮んでいたように思う。

 苛められてかわいそうだ

 Kさんが、もっと積極的に皆に話しかければ良いのに

後者の感情は、自分自身だって2年前まで苛められていたが、それを克服したんだ、という自負であり、見下しでもあったように思う。

 ・・・ 子供とは、その小さな身体で頭で心で、色々なことを感じ考え行動する

道徳の授業かなにかで、いじめの問題について話を聞いたのだと思う。

過去の自分を、まるで自分自身で Kさん に見る気がした私は、ある考えに至った。

生まれてはじめての 名案 だと、そう思ったらすぐに連絡網から Kさん の電話を探していた。

電話の先の彼女の声は、微かに震え、弾んで、時々に裏返ったりしていたのをはっきり覚えている。

その時の私は、確実に Kさん の上に立っていた

Kさんを かわいそう という気持ちで明らかに、見下していたのである。

私の申し出はこうだった ・・・ 明日から交換日記をしよう
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交換日記とは、鍵の付いた日記帳やノートなどを、友人やボーイフレンドと交互に書いては渡し合うもの。

秘密めいているだけに、交換日記をする相手とは、いかに自分にとって大事な人か という証のようなものでもあった。

私が彼女に申し出た交換日記、そこには明らかに 慈悲の気持ちがあった。

慈悲だけではなかったのだ。

喜ばせてあげよう、きっと感謝されるだろう ・・・ そして ・・・ それを誰かに話すかも知れない、それで明るくなって皆が驚き、私がきっかけなんだと褒めるかも知れない ・・・

そこには全て、計算されて自分に返って来る得というものが、想定されていたのだった。

受話器を置くと、夕焼けに赤らむ3件ほど店が並ぶ商店街へと出掛け、かわいらしい日記帳を選んだ。

私は、はしゃいでいたし興奮していた、浮かれた気分になって自分を褒め称えてすらいたのかも知れない。

Kさん との交換日記は、2週間ほどで、お互いに4回ほど絵や言葉を書いただけで終わった。

私が終わらせた のだった。
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日記帳の表紙に私が書いた こうかん日記 という文字の周りを Kさん が絵で飾ってよこしたのが気に入らなかったのだった。

Kさん はその後、私に訳を聞いてきたのだろうか、そんなことすら覚えがないほどに私は、彼女を突き放したのだった。

 ・・・ 子供とは、その小さな身体で以って、誰かを深く傷つけることができる

そしてそれは、多くの場合、傷つけた方は記憶していないのだ。

傷を残された者だけが ・・・

受話器を握って喜んだ記憶だとか、ワクワクしながら秘密めいた日記の表紙に絵を描いた記憶とか、思い出す度に悲しむのである。

あれからの Kさん の記憶は、不思議なほどに持ち合わせていない。
by yayoitt | 2007-11-27 04:12 | 思い出
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