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父の日に思う 父への賛歌
一杯の心配と不安を預けて、

胡坐(あぐら)する父のふところを飛び出し

その娘が家に帰ってきた時のことを、忘れない。

汚れた縁側に半ズボンで座って、足の爪を切っていた父。

こんな小さな父を見たことがない、そう思った。

いつもその娘にとって、大きかった父。
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力こぶを両手でパンチし、

かってぇなぁ、かってぇなぁ とはしゃいでいた頃。

山道で先に立ち、腰に手を当てたまま ほら、もうそこやぞ と振り向いた姿。

彼の後ろには 宇宙があった。

時には眩しく反射して、目を凝らして見つめると 父だった。

いつの間にか、まるで自分で生きていたかのような顔をした娘は

じっと父のことを見つめなくなっていた。
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初めて父の家を出て、

久し振りに帰ってきたその初夏の午後

父は、とても小さくなっていた。

力こぶも、白いランニングの下で

カラカラにただ 乾いていた。

いつも、強い神様だと信じていた その人が、

自分と同じく弱い人間であると知る時

娘は初めて 父に感謝する。

その優しさを いつも 弱さだと勘違いしていた娘は その時

初めて父の、思いの深さ、そして強さを知る。

朴葉の木の花が落ち、そこから生えた青い草をちぎりながら

父はただ 微笑んで言った。

 おお、おかえり

雑草の匂いが、風に乗って通り過ぎた ある初夏の日。
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by yayoitt | 2006-06-18 21:17 | 遠くにて思う日本
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