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バイバイ、クエーバー
動物病院にかかってきた一本の電話。

 “ 7歳の猫の安楽死の予約をお願いします ”

淡々と話す飼い主の女性のその理由は、ここ数ヶ月、急に家のトイレじゃない所で便をしたり、オシッコしたりするようになったから。

彼女は、リホーム(里親探し)の団体などに猫を預けて、その行方もどうなるかわからなくなるくらいなら、安楽死させた方がいい、と付け加えた。

病院のスタッフが、病院で里親が見つかるまで預かることを提案すると、決して犬猫ホームなどに預けることはしない、という約束で、了解してくれた。

安楽死の為に予約した時間は、急遽、その猫(クエーバー)の、動物病院への引越しの時間となった。

それから既に約一ヵ月半、夜だけは誰もいなくなるのでケネルで過すが、それ以外は、私達のオフィスでのんびり過した。

病院の中では、一度として、オシッコやウンチをトイレ以外の場所でするようなことはなかった。

置かれた幾つかの椅子に交互に座り、電話が鳴ればデスクに登り、電話で喋っているスタッフに身体を摺り寄せる。

隙間があれば好きに出て行き、どこかで見つかり、捕まって抱きかかえると “にゃおう~~”とちょっとだけ怒る。
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ブラッシングが大好きで、ブラシで梳かれ始めるとデスクの上で転がりながら爪を研ぎ、よだれをぼたぼた書類の上に零す。

とにかく人懐っこい、のんびり屋の、気のいい猫だった。

スタッフが皆言っていた。

 “ このまま、ここでずっといてくれたらいいねぇ ”

彼女が今日、お見合いに来たカップルに一目惚れされ、動物病院を去って行った。

用意されたカゴが、彼女のダイエット中の身体にはちょっと小さいのを嫌って、ミュアアアアと啼きながら病院を出た彼女。

もしかしたら、もうこの世にはいなかったクエーバー

新しいおうちで、優しいご主人の元で、幸せになっておくれよ。

 “ もしも、上手く行かなかったら必ず、ここに戻してください、そして、時々、近況を聞かせてください ”

そういう約束で、手を振り、満面の笑顔で去って クエーバーの新しいパートナーは去って行った。

デスクの上には、さっき彼女が零した涎(よだれ)と、白い毛の玉が残っていた。
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by yayoitt | 2006-03-25 07:13 | 動物病院での出来事、仕事
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