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Archie と彼の愛する老人
Mr.W と 彼の犬、スプリンガースパニョルの Archieアーチー)。

私が彼らを知ったのは、動物病院で働き始めてすぐのこと。

もう10年近くになるけれど。

その頃からもう、アーチーは、太っていたように覚えている。

そして、Mr.W は既に、年老いていたように思う。

アーチーの体重は、増えるばかりで。

成犬となった彼の足は、体重の為に屈曲してしまった。

病院を訪れるたび、獣医師と看護師からの度々の体重コントロールを説明される。

それでも、体重はまったく、増加はしても降下はしないのであった。

数年前には、食事が原因の、膀胱内の結石が見つかり手術を受けている。

完全に4本すべての足が曲がってしまったアーチー

痛み止めの薬を、毎日のみ始めて数年が経っている。

その間にも、老人には何度か、体重を落とすようにと説明がなされている。

老人は、その都度に頭(こうべ)を垂れて、うんうんと頷くのだった。

しかし、体重が減る印はなく、私たち動物病院のスタッフも、諦めている感がある。
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同僚の1人から、ここ最近になって、私の携帯にこんなメッセージが届く。

彼女は、老人とアーチーの家の近くに住んでいるのだ。

けれど、つい最近まで、彼らが自分の勤める病院のクライエンツだと知らなかった。

 ”今日も Mr.W とアーチーが庭で日向ぼっこしてたわ”

 ”今日は Mr.W はアーチーとボールを投げて遊んでたよ”

 ”雨なのに、アーチーは Mr.W の庭仕事に付き合ってたよ”


そんなメッセージである。

なんて、美しい光景なんだろう。
Archie と彼の愛する老人_c0027188_341222.jpg

そして思うのである。

私たちは、ついつい、目だけで見える限られた範囲でしか物事を判断しない。

たとえば …

Mr.Wアーチーのことは、ほぼ 虐待 放置 と判断さえしていた。

けれど …

ふたりの間にある、本当の事実は、関係は、絆は、誰も知り得ない。

彼と、彼、ふたりだけの間でしか、わかり得ない。

彼らを取り巻く外の世界から、それは見えない。

虐待、放置と、判断を下すのは簡単なことだ。

反対にそれが、愛情の裏返し、深い絆の証だと見直すのは、容易ではない。

プロフェッショナルであるはずの、私たちでさえが盲目になってしまう。

見えない部分に、本当の真実があるということを …。

すべてのケースが、これに当てはまるわけではない。

むしろ逆のケースで、虐待を見逃してしまっていることが多いだろう。

目だけで見つめないこと。

耳だけで聞いたことを鵜呑みにしないこと。

事実は、単純ではないということ。

難しいのだけれど、とても大切なことだと … 思わされるのである。

Mr.Wアーチーの上に、穏やかな時間が流れますことを。
by yayoitt | 2015-08-03 03:14 | 動物病院レポート ケースから
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