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こおろぎの言葉 アフターダークより
村上春樹の本を読んでいる。

アフターダーク

主人公の一人、マリ。

ラブホテルに勤める訳ありの女性、こおろぎが言う言葉がある。
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 人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きていくものなんやないのかな

 その記憶が現実的に大事なものかどうかなんて、
 生命の維持にとってはべつにどうでもええことみたい

 ただの燃料やねん

 新聞の広告ちらしやろうが、哲学書やろうが、エッチなグラビアやろうが、
 一万円札の束やろうが、火にくべるときはみんなただの紙きれでしょ

 火の方は おお、これはカントや とか これは読売新聞の夕刊か とか 
 ええおっぱいしとるな とか考えながら燃えてるわけやないよね

 火にしてみたら、どれもただの紙切れに過ぎへん

 それとおんなじなんや

 大事な記憶も、それほど大事やない記憶も、ぜんぜん役に立たへんような記憶も、
 みんな分け隔てなくただの燃料

 それでね、もしそういう燃料が私になかったとしたら、
 もし記憶の引き出しみたいなものが自分の中になかったとしたら、
 私はとうの昔にぽきんと二つに折れてたと思う

 どっかしみったこたところで、膝を抱えてのたれ死にしていたと思う

 大事なことやらしょうもないことやら、いろんな記憶を時に応じて
 ぼちぼちと引き出していけるから、こんな悪夢みたいな生活を続けていても、
 それなりに生き続けていけるんよ

 もうあかん、もうこれ以上やれんと思っても、なんとかそこを乗り越えていけるんよ

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その朝方、マリは長いあいだ求めていた、短いけれど深い眠りに就く。
by yayoitt | 2010-01-05 04:49 | 遠くにて思う日本
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