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眼鏡の下を流れるもの
猫の名前は サリー

サリー は推定12歳くらいで。

推定というのは、サリー が飼い主さんの家にやってきた時、もう多きかったから。

サリー は、年老いた飼い主さん Mr.D と暮していた。
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サリー が嘔吐を繰り返すようになったのが2週間前。

彼女を、重たそうに、でも大切に抱えて Mr.D は病院に現れた先週。

血液検査や超音波の結果、サリー は複雑な状態の糖尿病とわかった。

インスリンの注射で、コントロールができるのか ・・・ わからなかった

それに、毎日の注射を、Mr.D が打てるのかも ・・・ わからなかった

だけど、チャンスを与えようと、金曜日に サリー は病院にやって来た。

サリー はもう、ご飯を食べない。

声もあげない。

ただ、重たげに首を垂らして、鼻が地面にくっつくまま座っていた。

サリー はもう、自分の中で、決めているように思えた。

諦めているように、見えた。
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再度の検査の後、獣医師が出した答え ・・・

 インスリン治療をしても、今の状態は改善されないだろう

サリー は、顔を上げることなく、目は開いていても何も見つめていなかった。
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午後に、その小さな老人が、1人で病院にやって来た。

サリー を迎えに ・・・。

しばらくの間、サリー と静かな時間を過ごした後 ・・・。

くしゃくしゃのハンカチで顔を覆って、横たわっている サリー の体にキスをした。

 サリーは、11年前のある日、わしの家に来たんだよ

 それからずっと、妻とサリーと、一緒に暮してきたんだ

 2年前に妻が死んで、それからは、わしとサリーの2人だけの生活だった

 昔は犬を飼っててね ・・・ 

 犬がいなくなり、サリーが来て、妻がいなくなり ・・・

 とうとう、今日、1人っきりになったよ


眼鏡の下で、幾つもの大きな涙が零れるのを、見た。

勝手口から、Mr.D を送り出す時に、そっと背中を撫でたんだ。

言葉なんてないから。

この孤独な老人に、私なんかが掛けられる、言葉なんてなかったから。

枯れた声で、ありがとう と言ったのが聞こえると ・・・

春の強い風の中、その小さな老人は、姿を消した。
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サリー は、息をしてた強い時間前と、まったく同じ目をして横たわっていた。

サリー が伝えたかったことはきっと、彼に伝わっている。

そんな、気がした。

愛された動物は、ちゃんと伝えている。

一番、愛する人にちゃんと、伝えている。

春はもう、この空気の中にある。
by yayoitt | 2009-03-15 04:22 | 動物病院レポート ケースから
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