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とても、頭を上げることなどできないわけ
日本の病院は、病棟で働いた数年間。

いったい、どれだけの人の死に立ち会ってきたか、わからない。

正直言って、それは ・・・ 数え切れないほど。

数え切れない などと言葉にすることは、とても失礼なことなのかもしれない。
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命の唯一、尊さと同じように ・・・

その死ひとつひとつは、どれも同じものはなく、唯一で尊い。

病院生活の長い人、短い人、生きてきた日数の多い人、少ない人 ・・・。

水の中で溺れた赤ん坊、寝たきりで数年も暮した老人 ・・・。

病院での人の死。

家族が沢山、見守る中で眠った人、たった一人で逝った人 ・・・。

2人の子供のお父さん、大事にされた1人っ子の娘、愛された妻、
長すぎる闘病生活の中で、家族を失ってしまった男性 ・・・。
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病院での人の死。

人の、通ってきた人生の最期の締めくくりに、看護師は携わる。

その意味の大きさ、責任の重さに、私はいつも、身を捩じらせていた。

それでも、仕事をすすめる。

感情を抑え、人々の涙の川に溺れないよう、うつむいて働く。
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医師による死亡診断書などの書類が整い ・・・

私たち看護師によって処置が施され ・・・

ストレッチャーに横たわり、全体に布で覆われた身体は、病院の裏口へと向かう。

そこで、手配された車にご遺体は移されるのだった。

担当した医師、病棟の看護師長と共に、携わった看護師は ・・・

お見送り をするのである。

車に乗せられ、そして、静かに病院を離れ始める、その時 ・・・。

私たち一同は、玄関先で、深く頭を下げる。

車の形が見えなくなるまで、ずっと頭を下げ続ける。
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それは、もしかしたら医療者側の、敬意を表する かたち なのかも知れない。

だけど私達は、いつも、やっぱり心から、頭を下げ続けたんだった。

その人と接した時間は短かったとしても ・・・

ひとりの人の  という大きな舞台に居合わせ、

そのクライマックスである  という瞬間を、共にさせて頂くということ、

それがいくら仕事であったとしても ・・・ 1人の人間としては尊すぎた。

重すぎた。

容易く抱えきれなんか、できなかった。
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お見送り の後は、決まって誰も口を閉ざしたまま、また病棟に戻るのだった。

言葉なんて、そこには何も、生まれてきやしなかった。

ただきっと ・・・

打ちひしがれていたのに、違いない。

1人の人間の一生に、締めくくりに、打ちひしがれて。

そして ・・・

その生き様に、圧倒されていたんだ。
 
by yayoitt | 2008-12-18 06:33 | 看護婦時代
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